いつか自営でやりたい、というビジョンは、子どもの頃からあった。秋田県で最も小さな面積の八郎潟町出身。実家は建具屋で、自宅に隣接する工房で働く父の姿に憧れて育った。職人として確かな腕を持った父、間近に見ていた働き方はのちの指針となった。

「私、農家になりたかったんですよ。うちは自営でそんなに裕福でなかったし、食にかかわっていれば、食いっぱくれることもないかなぁと」。新潟大農学部へ進学後は、農家の嫁や新規就農の道も探ったが、話の面白い担当教授にひかれて畜産製造学を専攻し、そのまま博士号まで取得。大手ハムメーカーの研究職に就いた。

上司からは管理職にと目もかけられていたが、結婚・妊娠して長男を出産。育休中に夫の群馬への転勤が決まり、2016年に退職した。「生まれたら、もうガラッと価値観が変わっちゃいましたねー。仕事はどうでもよくなっちゃって(笑)、子どもと一緒にいたかった。

自営の一歩は群馬で踏み出せた。子どもを預けない働き方を探るNPO法人「ママの働き方応援隊」の集まりで前職のことを話すと、ぜひ教室を企画してほしいという声が上がり、「ハムとかを作る会」を始めた。一般の消費者はハムやソーセージのパッケージ裏に表示してある添加物について、よく知らない。なじみのなさは不安に直結する。添加物の研究をしていた戸塚さんは、ママ友たちとハムやソーセージ作りを楽しみつつ添加物の話もした。

「それらは決して“悪い奴ら”ではなく、必要だから入っているし、良い作用がある」ことをわかりやすく説いた。参加したママ友たちは熱心に耳を傾け、納得してうなずいていた。独立してやるべきことが見えた瞬間だった。

マイホームは箕郷町の柏木沢に建てた。しだれ桜と築150年近い古い蔵付きの情緒ある一画に一目惚れし、夫を説得して購入。“真っ平ら”に拓けた八郎潟町に比べると、なだらかな斜面に家が建ち並んでいること自体新鮮だったし、眼下に広がる市街地の眺めも美しかった。

念願だった自営は小規模な料理教室から始めることを想定していたが、「せっかくだから、やってみれば」と夫が背中を押してくれたこともあり、工房兼店舗を開く準備を始めた。県や市、民間の創業サポート講座を受講。専門家のアドバイスや資金支援を受け、2020年4月、自宅の一部に「Ticca Tocca(ティッカ・トッカ)をオープンさせた。金曜日中のみの短時間営業だが、ファンのリピーターがつき、順調な滑り出しだ。

自宅に併設した店舗。開店日の商品案内はFacebookページに掲載される。粗挽きソーセージやベーコンが人気

畜産県である群馬は、食肉のプロを育成する職業能力開発校、全国食肉学校(玉村)もあり、県民は意外と知らないが、食肉加工関連の起業を目指すには好条件がそろった土地だそうだ。

幼い子2人を抱えての自営業は思い通りにいかないことも多い。会社員の方が断然楽だとも思うが、子どもに働く姿を見せられる毎日には代えられない、と感じる。家族が笑顔で過ごせることに軸足をおき、無理はしすぎないことも決めた。子育てと自営、働く母のワークライフバランスには創造力が欠かせない。どちらも譲れないと考える戸塚さんの生き方に刺激を受ける人は多いだろう。

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